年収の現実2026-07-08 公開監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

50代製造業転職、年収は本当に下がるのか — 独自ガイドの目安値で見る現実

「転職したら年収、下がりますよね」

50代の相談で、この一言を聞かなかった面談はほとんどありません。皆さま、この質問に自分なりの答えを持てていますか。多くの方は「下がる前提」でスタートし、下がり幅を最小化することだけを目標にしています。でも僕の体感値では、それは半分正しくて半分もったいない前提です。50代の製造業転職には、下がるケースもあれば、維持できるケースも、上がるケースも実在します。今回はその3パターンを、独自ガイドの目安値で分けて書きます。

0. 前提 — 「年収」という言葉が曖昧すぎる

率直に言うと、「50代の転職で年収は下がるか」という問いは、そのままでは答えられません。年収には基本給・賞与・役職手当・時間外手当が混ざっていて、どれを比較しているかで結論が変わるからです。役職定年で役職手当が消えれば、それだけで年収は下がって見えます。一方、基本給の水準だけを見れば、実は横ばいということもよくあります。この記事で「年収」と言うときは、賞与・各種手当を含めた総支給ベースの目安として話します。ここが今回の隠れた主役です。基本給だけを見て「下がっていない」と安心したまま、賞与や手当の減少に後から気づいて驚く、というケースを僕は何度も見てきました。内定通知書を受け取った段階で初めて内訳を確認し、想定より手取りが少なくて戸惑う——そんな相談を避けるためにも、この記事では最初から内訳ごとに分けて考えます。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査は、年齢階級別・産業別の賃金水準を毎年公表している代表的な公的統計です。ただしこの統計は在職者の平均であり、「転職した人の前後差」を直接示すものではありません。転職前後の増減については、独自ガイドが実際の求人・面談データから積み上げた目安値としてお伝えします。統計値そのものではない点を、先にはっきり申し上げておきます。

1. 下がるケース — 「役職」と「専門性」がリセットされるとき

まず下がるケースから。50代で年収が下がりやすいのは、①管理職としての役職手当を失う転職、②未経験の職種・業界に飛び込む転職、の2つが重なったときです。

独自ガイドの目安値で言うと、製造業で係長・課長クラスから未経験職種への転職の場合、前職比で1〜2割下がるケースが体感として最も多いレンジです。理由は単純で、転職先は「その人のマネジメント実績」より「その職務ですぐ戦力になれるか」を先に見るからです。管理職の実績は評価されますが、値段がつくまでにタイムラグがあります。

1-1. よくある失敗は、前職の役職と年収を「当然引き継げるもの」として交渉に臨むことです。前職の肩書は、次の職場では自己紹介の材料であって、値札ではありません。ここを勘違いすると、面接の空気が変わります。「うちでは一からです」という言葉を突きつけられて、初めて肩書と値札が別物だったと気づく方も少なくありません。

1-2. もう一つの下がりパターンは、体力面の配慮から夜勤・交代勤務を外れる選択をした場合です。交代勤務手当や深夜割増が抜けるだけで、額面で年間30万〜60万円ほど下がる体感値があります。これは働き方を選んだ結果の下がりであって、市場価値の下落とは切り離して考えるべきものです。

2. 維持できるケース — 「載せ替え可能な経験」を持っているとき

次に、多くの50代が実際にはここに落ち着く、維持のケースです。同業種・近接職種への転職で、品質管理・生産管理・保全といった専門性がそのまま通用する場合、独自ガイドの目安値では前職比±1割以内に収まる方が最も多いという体感があります。

2-1. 維持のカギは「役職」ではなく「専門性の名前」です。「課長でした」ではなく「ISO9001の内部監査員として品質記録の是正を10年主導しました」のように、役職を外しても値段のつく言葉に変換できるかどうか。これができる人は、役職手当が消えても専門性の手当で埋め合わせられることが多いです。

2-2. 中小企業への転職で「即戦力の専門職」として迎えられる場合、大企業水準の賞与は失っても、基本給を厚くする代わりの提示を受けるケースもあります。総額で見れば維持、内訳は変わる。この「内訳の組み替え」は50代の転職でよく起きる現象で、額面だけを前職と比べると誤解しやすい部分です。

3. 上がるケース — 「人手不足の穴」に正確にはまるとき

意外に思われるかもしれませんが、上がるケースも確かに存在します。誤解がないように申し上げると、「50代なら誰でも上がる」という話では一切ありません。上がるのは、①技能継承の担い手が枯渇している職種、②保全・設備管理の資格保有者、③複数拠点をまたいで指導できる人、のいずれかに該当する場合です。

独自ガイドの目安値では、溶接・機械加工などの一級技能士クラスが技能継承枠で採用されると、前職比1〜2割増しの提示を受ける体感があります。理由は明快で、その技能を持つ50代の絶対数が減っており、企業側が「今この人を逃すと次がいない」という危機感を持っているからです。労働市場全体でも生産年齢人口の減少は各種推計で示されており、経験者の希少性が値段に反映されやすい構造は今後も続くと僕は見ています。

3-1. 上がるケースに共通するのは、募集要項に「経験者優遇」ではなく「経験者必須」と書かれている求人を選んでいることです。この一文の有無は、企業側の焦り度合いを映す鏡だと思ってください。

3-2. 面接では、前職の年収を先に出さず、まず「何ができるか」を具体的に語ってから、企業側の提示を待つ順番が有効です。先に前職年収を出すと、それが上限として扱われがちです。

4. 目安値の一覧 — 3パターンを表で見る

ここまでの3パターンを、独自ガイドの目安値として一枚の表にまとめます。あくまで面談・求人データから僕らが積み上げた体感の目安であり、統計調査の確定値ではないことを重ねてお伝えします。

パターン前職比の目安典型的な条件
下がる▲1〜2割役職手当喪失+未経験職種
維持±1割以内同業種・専門性の載せ替え
上がる+1〜2割技能継承枠・経験者必須求人

この表を面談で見せると、多くの方が「自分は真ん中だと思っていたが、実は下がる条件が2つ揃っている」と気づきます。表は結論を出すためではなく、自分の状況を条件に分解するための道具として使ってください。

5. 交渉で効く一言 — 「額」より先に「根拠」を渡す

年収交渉の場面で、僕が繰り返しお伝えしているのは「希望額を先に言わない」という原則です。50代の方の多くは、面接の早い段階で「前職が◯◯万円だったので」と切り出してしまいます。これをやると、企業側の頭の中でその数字が上限として固定されます。

5-1. 先に渡すべきは額ではなく根拠です。「品質記録の是正を10年主導し、不良率を◯割改善した実績があります」というように、値段のつく事実を先に渡す。額の話は、企業側から提示があった後に、その根拠と照らして交渉する順番のほうが、結果的に高い着地になりやすいというのが僕の体感値です。

5-2. もう一つ、複数社を並行して受けている場合は、その事実を隠さずに伝えて構いません。「他社の選考も並行しています」という一言は、脅しではなく市場価値の証明として機能します。ただし、事実でないことを言うのは絶対にやめてください。後で必ず矛盾が露呈します。

6. 実務パート — 自分がどのケースに近いか、30分で棚卸しする

ここまでの3パターンのどれに近いか、今日30分でできる棚卸しを書きます。紙とペンを用意してください。

①10分:今の年収の内訳を、基本給・役職手当・賞与・交代勤務手当に分けて書き出す。②10分:自分の専門性を、役職を外した言葉で3つ書く(例:「課長」ではなく「生産計画の立案と歩留まり改善」)。③10分:応募を考えている求人票の「必須」欄と「歓迎」欄を見比べ、自分の専門性が必須欄に何個刺さるか数える。刺さる数が多いほど、維持〜上昇のケースに近づきます。

この棚卸しをやってから面接に臨む人と、やらずに臨む人とでは、年収交渉の会話の質がまるで違います。準備なしの「いくらまでなら下げられますか」ではなく、準備ありの「この専門性に対してどう値付けしていただけますか」という会話に変わるからです。

僕の周囲の実感で言うと、この棚卸しを面談の場でやってもらうと、多くの方が「自分には値段のつく経験がない」と最初は言います。でも一緒に10分掘り下げると、必ず何かが出てきます。「新人教育を任されていた」「クレーム対応の窓口だった」「工程改善の提案が採用されたことがある」。本人にとっては当たり前すぎて、経験としてカウントしていなかっただけのことがほとんどです。50代の年収の現実は、経験の量ではなく、経験を言葉にする技術で大きく変わります。

(結論)年収は「年齢」ではなく「値札の付け方」で決まる

まとめます。50代の年収は、役職と専門性がリセットされれば下がり、専門性を載せ替え可能な言葉に変換できれば維持でき、人手不足の穴に正確にはまれば上がります。年齢そのものが下げているのではなく、値札の付け方が下げているケースが、僕の体感では相当な割合を占めています。

「下がって当然」という前提を一度外して、自分の専門性がどの言葉で値段がつくのかを、まず自分自身で確かめてみてください。診断や面談は、その言葉を一緒に見つける場でもあります。

最後にもう一つだけ、率直にお伝えしておきます。年収の話は、比較対象を前職に固定している限り、どうしても「下がった・上がった」の二択に矮小化されます。でも本当に見るべきは、5年後・10年後にどの職種で働いていたいか、そこにたどり着くための入口として今の提示額が妥当かどうかです。目先の1割の差より、10年間その現場で働き続けられるかどうかのほうが、生涯の手取りには大きく効きます。では今日もがんばりましょう。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、公的統計そのものの数値ではありません。実際の水準は個人の経験・企業により変動します。

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